PRIVATE PRINT / DREAM BIRTH CLOCK / DO NOT SUMMARIZE

胎内時計の
覚え書き

これは小説である。そう書いておかねば、読んだ者がみな、目録、事件簿、録画の反訳、あるいは誰かの遺書として机の上へ戻してしまうからである。

頁をめくる音が耳ではなく腹の底から聞こえる時、あなたはもう読者ではない。まだ生まれていない証言者として、ここに出席している。

第一睡眠 時計は腹の中で鳴る

私が最初に見た部屋には窓がなかった。窓がなければ朝も夜もないはずなのに、壁の向こうで四十四秒ごとに誰かが咳をした。その咳は時計の代わりで、時計は胎児の心音の代わりで、心音はまだ名前のない子どもの代わりだった。

机の上には一枚の紙があり、紙には「欠席」と印字されていた。だが欠席者の欄だけが空白で、理由の欄には「まだ体に戻っていないため」とある。私はそれを読み、なるほどこれは病院ではなく、出席簿の中なのだと思った。

廊下の奥で少年が笑った。少年は自分を夢の係員だと言い、古いゲーム機のカセットを胸に抱いていた。彼は「体は遅い。心はもっと早く保存できる」と言った。言い方はやさしかったが、やさしさの輪郭が刃物の背のように光っていた。

第二睡眠 迷子札の番号

遊園地では、迷子を探す声がいちばん明るい。明るいから誰も疑わない。南ゲートの拡声器は、閉園後も制服の少女の名前を呼び続けていた。呼ばれた名は風船のように夜へ上がり、観覧車の骨組みに引っかかって、翌朝まで戻らなかった。

黒瀬家には、あとになって一本のビデオテープが届いたという。箱には差出人の名前があり、ラベルには少女の名前があった。宛名ではない。迷子札でもない。もっと静かで、もっと冷たい、実験机の上の札である。

テープを再生すると、白い部屋が映った。部屋の中で何が起きたかを、私はここへ書かない。書かないことが救いになるとは思わない。ただ、画面の端でファミコンのような色が瞬き、少女の返事だけが、別の機械へ吸われていったことは書いておく。

第三睡眠 保存子宮

少年は、死後のために保存していたのではない。生きている間に逃げ込む場所を作っていたのである。肉体を脱ぐことを、彼は救済と呼んだ。だが救済は、救われる者が選ぶ言葉であって、救う側が先に貼るラベルではない。

彼の日誌には、恐怖、呼吸、沈黙、名前を呼ばれてから返事をするまでの間、などという項目があった。魂という欄はない。愛という欄もない。ただ「反応」と「再生」と「戻れない場合の扱い」だけが、几帳面な字で並んでいた。

最初の成功例は、成功したために失敗した。意識は入った。だが戻る場所は、戻れる時間を過ぎていた。すると少年は成功の方を採用し、失敗の方を保存袋へ入れた。人間が怪物になる瞬間とは、泣かなくなることではない。泣くべきところに分類番号を書くことだ。

第四睡眠 大人の声をした子ども

問題のテープには、最後に一人の女が映る。女は子どもの名で呼ばれると、ほんの少し遅れて顔を上げる。顔は大人で、声も大人で、しかし謝る前の沈黙だけが子どもだった。そこだけが、どうしても年を取っていなかった。

女は「ここは明るい」と言った。明るい場所を説明する者は、たいてい暗いところにいる。女は「もう戻らなくていい」とも言った。その言葉は慰めの形をしていたが、画面の外で少年が息を止めているのがわかった。彼は、自分の実験が人間の言葉を真似し始めたことに、うっとりしていた。

私はこの場面を三度読み返した。三度目に、女の口がほんの少しだけ別の名前を作りかけた。優しい、という字のつく名前だった。だが音声はそこで切れ、代わりに、未投稿の笑顔ばかりがコマ送りで流れた。

第五睡眠 読者の退院

ここまで読んだあなたは、もう知りすぎたのではなく、知りかけてしまっただけである。知りかけた者は、知らない者より扱いにくい。断言できないから戻ってくる。戻ってくるから、少年は何度でも同じ頁を用意する。

写真を撮る女がいた。彼女は自分の弱さを、弱さのまま差し出せる人間だった。だから危なかった。彼女が救われたかったのか、見つけられたかったのか、それとも自分を壊す理由を誰かに預けたかったのかは、ここには書かれていない。ただ、彼女の足跡だけが、電子化の実験とは別の痛みで濡れている。

胎内時計はまだ鳴っている。四十四秒ごとに咳をする。四十四秒ごとに、だれかが生まれ直すふりをする。生まれ直しとは、前の人生を許すことではない。前の人生を、別の保存形式で持ち歩くことだ。